私がおばあちゃんになったら
ユニット体制ではない従来型のフロアタイプの老健だった。
仕事は、特に精神的にキツイことが多かったけど、職場の人間関係は私にとっては快適で働きやすかった。
そのフロアに私より1年早く入職した、介護福祉士の男の人がいた。
その人はとても優しい人で、利用者さま方に対する対応も丁寧だった。
でも、丁寧なわりに要領が悪くて皮膚剥離や転倒事故を起こすことも多く、また丁寧過ぎて仕事が遅いために他の職員がとばっちりを受けることが多くて職員間では嫌われていた。
私自身も、なんであんなに丁寧に時間をかけてケアしてるわりに事故が多いんだろうと疑問を持っていた。
それから1年、2年と時が流れ、それでもなお要領が悪く仕事が遅いその人のことを、私は少し見下すようになってしまっていた。
その人はきっと、フロアタイプの働き方が合っていなかったんだと思う。
もっと、利用者さま方とじっくりと時間をかけて寄り添えるグループホームやユニットタイプの施設の方が向いていたのだと思う。
相変わらず事故を起こしてしまったり、他の職員と上手くやれなかったその人は、やる気をなくして、退職を申し出た。
管理者に説得されて系列のグループホームに異動になった。
今はそこで、仕事はキツいこともあるけれど、ゆとりある介護をしていて老健にいた頃よりは充実した日を送っていると本人から聞いた。
今、私は仕事を離れて介護の勉強をしているけれど、ふとあの時を思うと、もしも自分があの時あのフロアで介護を受ける立場だったら、誰にケアしてもらいたかったかなと考えた。
あの、鈍臭く事故しがちだけど、丁寧で優しい介護福祉士の彼に介護してもらいたいと思った。
なんであの人を見下せたんだろうと、自分をせせら笑いたい気持ちになった。